「大字・小字・丁目」とは?定義と興味深い命名の歴史

2026年08月14日配信

 ポスト シェア LINEで送る

前回まで、地番住居表示、そして住居表示の方式について解説してきました。日本の住所は、単なる記号の羅列ではなく、その土地の歴史や成り立ちを物語っています。今回は、私たちの生活に身近でありながら、その歴史や役割が意外と知られていない住所の構成要素、「大字(おおあざ)」「小字(こあざ)」、そして「丁目(ちょうめ)」について、事例を交えながら深く掘り下げていきます。 


「大字」と「小字」の役割

大字(おおあざ)の起源と役割

住所の基本単位である「大字」は、市区町村名の後に続く地名で、住所の表記における「○○町」や「○○一丁目」に相当します。

その起源は明治時代に遡ります。1889年(明治22年)の市制・町村制施行の際、それまで独立していた複数の村が合併して新しい市町村が誕生しました。この時、旧村の名称を「大字」として新しい市町村の行政区画名に引き継いだのが始まりです。

大字

このような経緯から、大字には古くからその土地で呼ばれていた地名や集落名が用いられていることが多く、その後の市町村合併や町名整理によって消滅した大字もありますが、今なお多くの地域で伝統的な地名が使用されています。

一方で、時代の変化とともに、企業名や施設名に由来する町名が誕生した例もあります。愛知県豊田市の「トヨタ町」などはその代表例です。 

トヨタ町_加工済み企業名が付いた豊田市トヨタ町

小字(こあざ)とは

一方、「小字」は、大字よりもさらに細分化された区域を示す名称です。大字が旧村単位であるのに対し、小字は旧村内の小さな集落や耕地、山林などの集まりを表していました。小字名には、大字の中にある小さな集落や、特定の地形、土地の用途(例えば「田」「畑」など)に由来するものがあります。

小字は登記情報などには記載されていますが、町名整備による廃止や、小字を住所に記載しなくても場所が特定できる場合も多いことから、特に都市部では馴染みが薄いのが実情です。一方で、小字がないと住所が特定できない地域や、大字が存在せず小字が大字と同じように扱われている地域も存在し、その重要性は今も失われていません。 

字上町


「大字」と「小字」にまつわる地図編集の工夫

地図には多くの地名が載っていますが、その中には大字や小字も含まれており、それぞれに編集の工夫が凝らされています。平成の大合併や市制施行などの際には地名が大きく変わりましたが、特に地図では、地名の書き換えや新たな町域の設定など様々な対応が発生しました。ここでは具体的な事例を挙げながら、こうした地名表現におけるマップルの地図編集について紹介します。

宮古島市_合併

事例1:奥州市(岩手県) -住所特定に不可欠な「小字」-

岩手県奥州市には、小字を省略すると住所が特定できない地域があります。実際に地図で奥州市内の地番を見ると、ひとつの大字内に同じ地番が複数存在しています。この地域では、小字ごとに地番が振られており、大字だけでは場所の特定はできません。全国には、このように「小字」が住所を特定するための重要な鍵を握っている地域が、いくつも存在しています。

このような場合、マップルの地図では、大字名と小字名の両方を地図に載せ、さらに境界線(字界)を用いることでその範囲を明示して、住所を正確に特定できるよう工夫しています。

奥州市大字(赤)・小字(青)と小字界線(茶)

事例2:栗原市(宮城県) -旧自治体名を付与- 

栗原市では市町村合併に伴い、旧自治体の名称を大字名の頭に付与したことにより、「金成津久毛平形名地三味沢」など大変長い大字名が誕生しました。このような例は全国各地で見られます。

マップルの地図では、町域の中央に町名や大字名を配置するのを原則としています。しかし、長い大字名をそのまま配置すると、他の情報が配置できなくなるという問題が生じました。そこで、編集基準を順守しつつ、大字名が町域内に収まり、かつ他の情報と重なることがないよう文字の大きさを調整しています。また、狭小の町域には、文字の大きさだけでなく、縮尺に応じて丁目名を括弧「( )」書きにして町名の一部を省略することで、見やすさを維持しています。さらに、町域の表現が難しい場合は、大きさや書体の異なる仕様の文字を、集落の中心部付近に配置することで、場所の特定ができるよう工夫しています。 

栗原市括弧「( )」書きを用いて丁目名を省略

栗原市_2集落の中心付近に文字を配置

事例3:滝沢市(岩手県) -小字が大字に変更- 

「村」から「市」へ市制施行によって、新たな大字が誕生したのが岩手県の滝沢市です。当時の滝沢村は「日本一人口の多い村」として知られていましたが、2014年(平成26年)1月に「市」となりました。

滝沢村では、市制施行に伴い、村内にあった約200の小字が大字に変更されました。その結果、従来の大字地域内に複数の大字が誕生することになりましたが、その多くが狭小な町域でした。中には小字名の頭に従来の大字名を付与した地名もあり、非常に長い名称の大字が複数誕生することになりました。そのため、大字名をいかに町域に収めつつ、見やすく表記するかということが地図表現の課題になりました。

これに対して、マップルの地図では次のような工夫を行い、「見やすさ」と「地域の判読性」を高めるような地図編集を行っています。

  • 町域に収まる場合は中央に配置し、町域ごとに色分け

  • 文字が収まらない狭小の町域には、文字の大きさを調整して配置。

  • 新たに小字から大字へ変更したものを「大字の仕様」で表記。

  • 従来の大字を「広域総称」という特別な仕様を用いて、周辺を代表するよう表現。

  • 広域総称の範囲に対しては、1つの町域の色を設定。

④と⑤は、頭に従来の大字が付与された地域に対しての工夫です。これにより、市制施行により小字から変更された新しい大字は、広域総称に内包される形で、同一の地域であることが明確となりました。新しく誕生した大字に対して、広域総称を省略して表記しても利用者が混乱することなく、直感的に目的地を探し出せるスマートな視覚効果を生み出しています。 

滝沢市広域総称(赤丸)・大字(青囲い)


地域ごとに異なる個性的な大字・小字

全国には大字や小字の名称に、地域の歴史や行政の都合から生まれたユニークな理由で命名された地域があります。これから紹介するのは、特定の順番を地名に用いるユニークな事例です。

事例1:「いろはにほへと」「イロハニホヘト」(いろは順)

「いろは順」は日本語の文字の並べ方の一つで、「いろは歌」から来ています。いろは歌は47文字の仮名を一度ずつ使った歌であり、古くから文字を覚えるための手習い歌として知られています。

八街ほ

千葉県の香取市や旭市、八街市などの一部の地域では、この「いろは順(いろはにほへと・イロハニホヘト)」を地名に用いています。これは、市町村合併の際、それまでの村名を引き継がず、代わりに馴染みの深い「いろは順」を採用し置き換えたためと言われています。実際、MAPPLE法務局地図ビューアで各地域の登記所備付地図をみると、「いろは順」は、大字や小字だけでなく、地番の頭文字として整備されている場合があることもわかります。

八街市_2 八街市で見られる「いろは順(ひらがな表示)」 

旭市旭市で見られる「いろは順(カタカナ表示)」

事例2:「干支(えと)」

「干支(えと)」を使用している地域もあります。干支とは十干十二支の略であり、「十干(じっかん)」「十二支(じゅうにし)」を組み合わせた60年を周期とする暦の体系で、古代中国の思想や易から誕生しました。

  • 十干:「甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸」の10種類

  • 十二支:「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」の12種類

十干(甲、乙、丙)は長野県長野市や長崎県雲仙市など、十二支(子、丑、寅)は石川県七尾市をはじめ、どちらも全国各地で見られます。特に七尾市は「十二支」「いろは順」が使われている珍しい地域です。これらが各地域で普及した背景には、どちらも明治時代の地租改正の際、多くの人に馴染みがあり、かつ順番が決まっている「いろは歌」「十二支」が、広大な土地を分割・整理する上での「記号」として非常に便利だったという事情があると考えられます。

長野市長野市で見られる「十干」

雲仙市雲仙市で見られる「十干」

七尾市_いろは歌_十二支七尾市で見られる「十二支」と「いろは順」

 


「町名整備」について

住所の仕組みでは、これまで「地番整理」や「住居表示」について紹介しました。地租改正が行われてから時代が進み、高度経済成長期以降の土地区画整理や大規模な宅地造成が行われるようになると、時代に即した「土地の整理」が必要になりました。それまでに蓄積された、時代の変化に伴う地番の混乱や飛び地を解消し、住民の利便性を高めるために行われるようになったのが「町名整備」です。

自治体や対象区域によって実施される内容は異なりますが、一般的に町名整備には以下のようなアプローチ(手段)があります。

  • 町名整備(狭義):地番はそのままで、「大字○○」から「○○町」のように分かりやすい町名・町界へ変更する方式。

  • 町名地番整備:町名だけでなく、不規則に並ぶ地番も同時に新しく並べ替えて整理する方式。

  • 住居表示:土地の地番とは完全に切り離し、建物の配置に合わせて「○番○号」と住所を表示する方式。

こうした町名整備を進める中で、区域をより分かりやすく区切るための手段の一つとして新設・活用されてきたものに「丁目」があります。現代の住所で重要な役割を果たしているこの「丁目」とは、一体どのようなものなのでしょうか。実はその歴史は古く、明治時代よりもさらに前の時代へと遡ります。 


「丁目」とは?

「丁目」も大字や小字と同じ役割を持つ住所を表す地域区分の単位です。「丁目」の歴史は古く、江戸時代から使用されていました。その名残は、江戸時代の歴史を伝える書物や絵図のほか、東京都台東区内に掲示されている「旧町名由来案内板」などからも窺い知ることができます。 

浅草新吉原江戸町一丁目_1江戸の「丁目」を伝える旧町名由来案内板

丁目の町名案内板左は住居表示の「丁目」、右は住居表示未実施の「丁目」

事例1:堺市(大阪府) -「丁目」に似て非なる「丁」-

大阪府堺市では「丁(ちょう)」を使用している地域があります。明確に記した資料は少ないものの、その背景には戦国時代の歴史が関係しているとされています。大坂夏の陣により堺の町は荒廃しました。徳川家康は堺の町の復興にあたり、町を碁盤の目のように整備し、約400の町が誕生しました。

堺市(丁)堺市で見られる「丁」 

明治時代になると、これらの町は町組(自治会のようなもの)を用いて再編され、「丁」という単位が用いられました。「丁目」が細分化された区画を指すのに対し、堺の「丁」は独立した町そのものを表す意味合いで用いられ、「○○町」と同じような感覚で使われ続けています。実は、昭和時代の初めに「丁」に「目」をつけるか議論がされたこともあったようです。しかし、由緒ある「丁」という表記に統一したという経緯があります。一方、同じ堺市にある泉北ニュータウンでは、住居表示の「丁目」と同じような意味合いを持つ形で「丁」が用いられています。

堺市_丁

事例2:登米市(宮城県) -表記は「丁目」なのに「小字」- 

登米市役所の住所は「登米市迫町佐沼字中江二丁目6番地1」です。一見すると「中江二丁目」は「丁目」に思えますが、実はこの「中江一丁目」から「五丁目」は、それぞれ「迫町佐沼」内にある単独の「小字」です。このような小字は、急速な市街化に伴い、行政手続きの簡略化や住民負担の軽減を図るため「小字の分割」という手法によって誕生することがあります。その際、わかりやすく現代的なイメージを打ち出しつつ、将来的な字名増にも柔軟に対応できるよう「○丁目」という名称が採用される場合もあるようです。

小字でありながらも区画ごとに地番が整備(地番整理)されており、全国で広く使用されている町名としての「丁目」と実質的に同じ役割を果たしています。そのためマップルでは、地図の利便性を重視して「中江二丁目」および周辺の「丁目」を「みなし大字」として扱い、大字と同じ仕様で地名と町域を表示するとともに、「中江」の一丁目から五丁目を一つの括りとして町域色を設定しています。このように小字名に「丁目」が含まれる珍しい例があることも、日本の住所の表し方の奥深さを物語っています。    

登米市登米市で見られる「丁目」が付く小字 


「丁目」のあとに文字が付く?

「丁目」といえば、一丁目、二丁目と順番に振られていく形式が一般的ですが、新潟県十日町市の一部地域では、丁目の後に方角や位置関係を表す文字が付与されている事例があります。

十日町市の「稲荷町三丁目」では、「三丁目」そのものに加え、そのあとに「北」「東」「南」「本通り」といった方角や通り名が付与され細分化されています。また、「本町一丁目」は「上(かみ)」と「下(しも)」の2つに分かれています。一般的に地名における「上」や「下」は、地形の高低差や町の中心からの位置関係などによって付けられることがありますが、十日町市では「丁目の後ろ」にこれらの言葉を組み合わせた町名が設定されています。 

十日町市_稲荷町5つに細分化された稲荷町三丁目

さらに本町には「六丁目」という表記ではなく、「本町六の一丁目」「本町六の二丁目」「本町六の三丁目」という町名が設定されています。この表記は、本町一丁目から五丁目まで続く一連の町域の一部なのか、あるいは全く別の町域なのか、文字面だけでは判断がしにくいという面があります。 

十日町市_本町1~5丁目本町で見られる「上・下」

これに対してマップルでは、地図の見やすさと利便性を両立させるために次のような編集を行っています。
まず、稲荷町や本町のように丁目の後に「方角」「上・下」が付与される地域については、同一の町域として捉え、地図上では「稲荷町(3北)」や「本町(1上)」のように括弧「( )」書きを用いて表現しています。
これはマップルにおける全国的な仕様に倣ったもので、例えば北海道札幌市白石区の「南郷通」「平和通」といった地域でも採用している表記です。 

札幌市_平和通・本郷通札幌市白石区の平和通・本郷通周辺の丁目の表示 

 ただし、全てがこの表記というわけではありません。例えば、「稲荷町三丁目本通り」の場合、「(3本通り)」と表記してしまうと「さんぼんどおり」と誤読されてしまう恐れがあります。また、方位や上・下は文字であると同時に記号としての役割を持っています。しかし、「本通り」は記号として認識するのは困難です。このような独自性の高い地名に対して、マップルでは「読みやすさ」「誤読の防止」のため、「(3)本通り」とあえて異なる表記にしています。基本となるルールはあるものの、利用者の視点に立って柔軟に対応するのも、マップルならではの工夫です。 

十日町市_稲荷町(3)本通り他とは異なる「稲荷町三丁目本通り」の町名表記

一方で、「本町六の一丁目から三丁目」については、本町一丁目から五丁目へと続く町域としてではなく、独立した別の町域であると考え、地図では、町名の配置のほか町域の色を本町一丁目から五丁目とは異なる色に設定することで、視覚的にそれぞれの区割りが伝わるよう工夫しています。 

本町六の一丁目から三丁目本町六の一丁目から三丁目


「地名」が無い?「一丁目」そのものが町名になることも

静岡県下田市には、「一丁目」「二丁目」「三丁目」「四丁目」「五丁目」「六丁目」という「住居表示」が実施されている地域があります。これらは、前述した「○○一丁目」のように地名に付随するものではなく、「一丁目」という言葉自体が独立した一つの町名となっています。 そのため、マップルの地図ではこれらを単独の「町名」としてそれぞれの町域に配置し、「境界線」「町域の色分け」といった地図表現を用いて表記しています。

下田市下田市に見られる独立した「丁目」の町名


まとめ

今回は「大字」「小字」「丁目」という、住所を構成する基本単位の成り立ちと、その興味深い命名の歴史についてご紹介しました。普段目にしている住所ですが、そこには明治時代から続く市町村の合併や地租改正といった歴史の足跡が、大きく影響していることがわかります。しかし、こうした歴史や行政の変遷は、時に地図編集者を悩ませる事象を生み出すことがあります。全国一律の基準では落とし込み切れない、この「地域特性の象徴」とどう向き合うか。それこそが地図編集における難しさであり、同時に醍醐味でもあるのです。

次回は、市町村合併や政令指定都市への移行といった「仕組みの変わり目」によって誕生した、同一の自治体内に全く同じ町名が存在する「重複町名」「同一町名」について、具体的な事例を挙げつつ、前半と後半の2回に分けて解説します。同じ自治体内での重複町名も、隣接する自治体間での同一町名も、一見同じように見えてその成り立ちは様々です。これらを地図上でいかに分かりやすく表現するかは、編集者を大いに悩ませるポイントでもあります。 こうした課題に対し、マップルが実際にどのように地図編集を行っているのか、その具体的な取り組みについてもあわせてご紹介します。