自治体や観光施設のDX施策に活用できるLocatone(ロケトーン)。全3回に渡って対談形式でLocatoneの魅力をお届けします。前回はLocatone誕生までの経緯や名前の由来などを伺いましたが、改めてLocatoneの魅力に迫ってみたいと思います。(以下敬称略)
安彦剛志
ソニー株式会社
Locatone プロデューサー
ソニー株式会社にハードウェアエンジニアとして入社。ノートPC「VAIO」や、ブルーレイディスクの立ち上げなどを担当。
プレイステーションソフトの企画にも携わりエンタメの作り方を学んだ後、2013年から新規事業として聖地巡礼アプリ「舞台めぐり」に参画、大洗や沼津、弘前など数多くの地域の集客サポートを行う。
「地球まるごとテーマパーク化」に向け、更に広いフィールドをエンタメ化することを目標に、現在はLocatoneの普及に尽力している。
旅行スタイルは「食い道楽」。
青山龍
ソニー株式会社
Locatone ビジネスプロデューサー
ソニー株式会社にソフトウェアエンジニアとして入社。ノートPC「VAIO」やデジカメ「サイバーショット」の開発に携わった後、「Sony Tablet」の新規立ち上げに従事。2013年からはウェアラブル商品およびサービス企画を担当し、「Xperia Ear Duo」のソードアート・オンラインとのコラボモデルなど、コンテンツIPを活用したコラボレーション企画を手掛ける。
現在は、ソニーの音の技術から生まれた音楽体験Sound ARを提供すべく、Locatoneの利用促進を図っている。
旅行スタイルは「1にお城、2に温泉」
宇津井聡史
株式会社マップル
取締役 事業企画本部長
損害保険会社に新卒入社後、旅行と地図のワクワク感に惹かれて株式会社昭文社(当時)に転職。
デジタル部門のソリューション企画担当として地図、観光情報のいろはを学んだ後、2011年より事業戦略担当として新規事業開発や企業アライアンス、スタートアップ投資などを推進。
現在は株式会社マップルの事業企画担当として、地図や観光情報を活用して、世の中に必要な「新しい価値」を提供し続けることを目指している。
旅行スタイルは「行き当たりばったり型」
音と技術が体感できる
宇津井:
まずシンプルに「特徴はこれ!」と言うと、音による没入感や臨場感なんかがポイントとなりますか?
青山:
特徴は色々あるのですが、特筆するなら没入感をより際立たせる演出「モーションサウンド」と「立体音響」です。それらを活用した現実世界に仮想世界の音が混ざり合う新感覚の音響体験をSound AR™と呼んでいます。
宇津井:
Sound ARって直観的で分かりやすいネーミングですね。音の仮想現実というイメージで、音と現実が重なり合う感じですよね。
モーションサウンドと立体音響とは、具体的にどういうものでしょう?
青山:
モーションサウンドは、持っているスマホのセンサーでユーザーの動き(歩いたりジャンプしたり)を検知し、それに合わせた効果音が返ってくる。立体音響は、スマホとイヤホン(『LinkBuds(リンクバッズ)』など)に入っているコンパス/モーションセンサーを使うもので、ユーザーの向きに連動して音の向きも変わるインタラクティブな感覚が味わえる。
こうした技術で、より没入感を味わえるツアーをつくることができるのがLocatoneの特徴です。
Locatone×ムーミンバレーパーク「MOOMINVALLEY PARK WINTER WONDERLAND sound walk」
宇津井:
まさにソニーさんの技術力のなせるワザ!という感じです。単にスポットに行ってボタンを押してオーディオを聞く仕組みに比べて、より自分がその世界に参加している感覚ですよね。実際に私も体験しましたが、この没入感は本当に凄かったです。
青山:
Locatoneでは、ツアー開始後はスマホをポケットに入れたままで自動で音が聞こえてくるので、歩きスマホにならない点もポイントです。
歩いているだけで聞こえてくる音が変化するので、視線をスマホ画面ではなくリアルに存在する美しい建物や風景に向けることができる。まさに街を歩いているだけでテーマパークの中を歩いているような気分に浸ることができます。
また、耳をふさがない構造の完全ワイヤレス型ヘッドホン『LinkBuds(リンクバッズ)』を使っていただけると、川の音や鳥の声といった現地の音にヘッドホンからの音が自然に組み合わさることで、よりSound ARを際立たせることができます。
宇津井:
耳をふさがない開放型イヤホンの良さは、有楽町・銀座で開催していた「Walk with U」で体験させていただきました。現実の音とミュージカルの楽曲や平原綾香さんの声が重なって、いつも見ている景色に全く新しい視点が加わる感覚でした。Sound AR、まさにLocatoneならではのポイントですね。でも…『LinkBuds(リンクバッズ)』を持っていない人は普通のイヤホンを使っても良いんですよね?
青山:
もちろんお手持ちのイヤホンやヘッドホンでもお楽しみいただけます。
最大の特徴は、「つくる」「分析」
安彦:
もう一つの特徴ですが、昨年グッドデザイン賞をいただきました!
宇津井:
そうそう、聞いていましたよ。受賞おめでとうございます!
安彦:
新ビジネスデザイン賞を受賞したのですが、新しい体験である点に加えて、クリエイターと新たな表現を「つくる」という点も評価されました。
「つくる」というのは、スタジオ機能です。自分たちで操作と運用ができるようにしている。初回導入後は企画者自身が操作・運用することで、どんどんコンテンツ拡充ができるような永続的に使える仕組みにしました。
また、アナリティクス機能を用いて、何人来た、ここからここに人が動いた、みたいな情報を可視化することができます。こうすることで継続的に毎年の来訪者数やエリアを動く人の流れをウォッチすることが出来ます。
青山:
スタジオ機能はYouTubeを想像してもらえるとわかりやすいかもしれません。
コンテンツを楽しむサービスであると同時に、自分がコンテンツをアップロードしてそれを配信することもできる。そういうエコシステムです。
宇津井:
とてもわかりやすいです。これまでの地域の観光プロモーションは、自治体ホームページやパンフレットなどがメインで表現の場が限られていると思うので、新たにプロモーションする場所が出来るというのは、自治体やDMO(観光地域づくり法人)で観光プロモーションを担当する方々にとって、とても大きな武器になると思います。
それと単発プロモーションではなく継続性のある施策という視点も、とても重要なポイントですね。各地域の観光戦略は単年度でなく複数年で策定していますので。
観光庁の発表した2022年(令和4年)度の当初予算は、前年比46%減の222億5300万円となった。その中でもDXの推進による観光サービスの変革と観光需要の創出は7.8億円と2021年の8億円とほぼ同額となっている。出典:https://www.mlit.go.jp/common/001446691.pdf
安彦:
そうですね、そういう意味でも、是非、多くの自治体さんに参画していただきたいと思っています。
宇津井:
これからのLocatoneでは、このスタジオ機能を活用した取り組みが中心になっていくイメージですか?
青山:
はい。今のコンテンツは比較的きっちり作り込んだものが多いのですが、今後はより多くのクリエイターに参画していただき、スピーディーにツアーをつくって配信できる環境を整えていきたいと思っています。
どこへ行ってもLocatoneのコンテンツがあるという世界にしていきたいですね。
宇津井:
たくさんのクリエイターが参画すると、コンテンツにも個性が出てくるでしょうね。アカデミックなツアーがあったり、ワクワクするツアーがあったり。同じ場所でも全く見え方が異なる、多種多様なツアーが楽しめるようになりそうですね!
旅行スタイルの第三形態
宇津井:
ところで、音だけを聞きながら観光するって個人的にはすごい革新だなと思っていまして。
「旅の第三形態」と言っても良いのかなと思っています。
安彦:
なかなか面白い表現ですね。第一形態と第二形態ってなんでしたっけ?
宇津井:
ガイドブックを持って旅をするスタイルが第一形態、スマホ片手に旅をするスタイルが第二形態。昭文社では以前からガイドブックの読者限定の「まっぷるリンク」というアプリを無料付帯していて、下調べは本で、現地ではスマホで、という旅のスタイルを推進して来ました。今ではスマホを片手にという新しい旅のスタイルも定着してきた感があります。
でも、Locatoneは画面も無く、音だけで楽しめるという。だから旅行スタイルの第三形態なのかなと。
安彦:
なるほど。スマホ画面でなく音を活用することで、新しい発見に繋げることも出来ると思っています。宇津井さん、旅行している時に大事な見どころを見逃した経験ってありませんか?
宇津井:
そうですね、素通りしちゃって気付かなかったことはありますね。あとから気付いて後悔したりする。そういうのってその場所にとっても、ユーザーにとっても機会損失ですよね。
安彦:
もったいないですよね。そこで我々は、リアルの美しさに気付けることを重視しました。誰かに「ねぇ、こっち見て!」と声をかけられたら、見ますよね。すると、今まで見向きもしなかったものに視線が向いて、興味を持つきっかけになる。そのきっかけ作りをLocatoneで実現したかった。
宇津井:
なるほど。それってとても面白い考え方ですね。私たちも現地のおすすめスポットを案内することはたくさんやって来ましたが、現地で振り向いてもらうというのは…我々には無い発想でした。
魅力的なコンテンツをつくるポイント
宇津井:
Locatone自体について、たくさんお話を聞かせてもらいましたが、ここからは具体的な自治体の事例として、マップルがビジネスコーディネーターとなって三重県名張市を舞台に開催したLocatoneツアー「名張コバソロ旅」についてもお話できればと思います。
コンテンツ制作の際は青山さんにも現地入りして技術面のサポートをいただき大変お世話になりましたが、「名張コバソロ旅」のツアーを制作する際にポイントとなった部分は、どんなところでしょうか。
名張コバソロ旅~音楽とともに三重県名張の街歩き~
青山:
名張コバソロ旅は「コバソロさんの楽曲とともに巡る」がテーマでしたので、各スポットにある物語と楽曲の組み合わせがどう意味を持つかがポイントでした。
宇津井:
確かに観光スポットには、そのスポットにまつわる様々な歴史や物語がありますよね。Locatoneでは景色と音の重なりが重要なポイントになりますし。
名張市で言うと、具体的にはどんなところでしょうか。
青山:
たとえば、夏見廃寺跡。
現在は公園の一部のような見た目ながら約1,300年前に大来皇女(おおくのひめみこ)が亡き弟を偲んで建立したという歴史があり、そこで流れてくるのは「会いたくて」という楽曲。これはナレーションでもご案内していますが、コバソロさんのお父様が他界された時に作られた曲です。
その場所と楽曲誕生のエピソードが重なると、普段見ている何気ない風景が全然違って見えてくる。まさに現実世界に色がつく感覚です。
夏目廃寺跡では楽曲制作のエピソードをアーティストが紹介してくれる
宇津井:
映画やドラマも、音楽があることでそのシーンが盛り上がる。これと同じですね。いくら名作の映画でも音楽が無いと感動も半減しますし。
通常のARでも今はない建物を今ある景色に重ねて再現できたりしますが、Sound ARでは、今ある現実を音によって、より感情的に体感することできますね。
青山:
その通りです。まさに体感ですね。
赤目四十八滝の入り口から奥の方にある不動滝まで、豊かな自然の中をマイナスイオンを肌で感じながら歩く。そこで聴く「さよならスマイル」という曲が本当に良い。
宇津井:
風景と現地の音と楽曲、それらを如何にマッチさせられるかは、企画者でもあるビジネスコーディネーターとしての我々の腕の見せ所だと思っています。
様々な事例から見えてくること
宇津井:
参考として、他の事例から見るコンテンツづくりのポイントなんかも知りたいのですが。
安彦:
街歩き以外だと施設型のコンテンツがあります。物語と一緒に施設内を巡るという内容ですが、近くにある公園でも関連した内容が継続して楽しめるようにしました。
宇津井:
なるほど。施設内のツアーだけなく、施設から出てもツアーが続くんですね?
安彦:
そうです。そうすると、話の続きが気になるからと付近の施設に入るきっかけにもなる。今まで施設内でしかできなかった施策を外の世界とシームレスに繋げることで、観光施設と地域が一体となった取り組みに繋がる事例も出て来ています。
宇津井:
それは面白いですね。たくさん人が集まる観光スポットを軸にストーリーを組み立てれば、ダイナミックな人の動きが出てきて、地域内の回遊性もぐんと高まりますね。
安彦:
そうそう、例えば、博物館や美術館を出てからも街歩きで同じストーリーを楽しんでもらえる。そんな仕掛けがLocatoneならできます。
青山:
博物館は物を集めてひとつの場所で展示していますが、展示物ひとつひとつにルーツがありますよね。東京都で展示されている恐竜の骨が発掘されたのは福井県だったりする。そういったことを知識として教えてくれると、外にまでつながるストーリーができますよね。
宇津井:
例えば十和田市のアートのように、既に一つのテーマに特化したまちづくりをしている地域などは、美術館だけでなく、街全体のストーリーが作りやすいかも知れませんね。
安彦:
そうですね。あと音楽でめぐる旅だと前述の「名張コバソロ旅」ですが、他にはアーティストコラボの銀座・日比谷を巡るコンテンツなども好評でした。
宇津井:
著名なアーティストが耳元で街を案内してくれるというのは、まさにSound ARの醍醐味ですね。
安彦:
旅の途中も演出した事例もあります。ポイントは公共交通機関との組み合わせで、電車に乗っているだけで「今トンネルを通り過ぎたね」とかキャラクターが話しかけてくれる。車窓の風景を楽しみながらキャラクターと一緒に聖地に向かうワクワク感を詰め込みました。舞浜の駅を降りたときの、あの感覚と近いと思います。
宇津井:
GPS連動だからこそ、その状況に合わせたリアルタイムな語り掛けが出来るんですね。地域だけでなく公共交通機関やSA/PAなどとの連携もあると、よりテーマパークに近づけそうですね。
タレントパワーは必須?
宇津井:
これまでのお話からLocatoneには観光活性化に必要な仕掛けが揃っているのは理解していますが、まずはツアーの内容やコンテンツに魅力を感じてもらう必要がありますよね。
より集客力のあるコンテンツにするには、タレントやキャラクターといった、いわゆるIP(Intellectual Property)の力も必要かと思うのですが、その点はいかがでしょうか?
大規模な野外フェスなどをフックに一度に大勢の人を呼ぶことに成功しているケースも多いが、どこでも開催できるわけではない。
安彦:
タレントパワーが効果を発揮する場面も、視点が2つあると思います。
ひとつは目的を持った来訪者の満足度を高める場合。これは現時点で観光地と呼ばれる場所が該当します。
駐車場から目的の場所へ向かう途中のあまり知られていない建造物にもすごい歴史があったりしますが、そこをタレントさんや声優さんの声で視線を向けさせて気付きを与えたりできます。既存観光地に対してアディショナルの情報を入れてあげる活用方法として効果があると思います。
もうひとつは、観光地としての認知度がそれほど高くない場所に人を呼ぶ場合。タレントやキャラクターを目的に出かけようという気持ちをつなげるのも、「流入人口増」には効果的です。
このふたつはターゲットも仕掛けも異なってきます。
宇津井:
IPの活用は、地域の観光資源や来て欲しい人によって臨機応変に、ということですね。
自然豊かな日本には、どの地域も魅力的な観光資源が詰まっているので、初回訪問のきっかけ作りとしてLocatoneを使って、その土地の魅力に気づく人が増えれば、その後はリピーターになってくれる人も増えそうです。
将来的にはイヤホンさえあれば観光地にいけば何かしら流れてくる、みたいなことも実現できそうですね。
青山:
まさに道中のエンタメ化です。
目的地に着いてからガイドを聞くだけでなく、目的地までただ歩いているだけの時間もエンタメ化できてしまう。
個人ではお城が好きで山城とかも行くのですが、ただ登るだけだと家族からは「つまらない」と言われてしまうため、よくよく見ると残っている石垣など見るべきポイントを話しながら歩いています。
宇津井:
その気持ち、よく分かります(笑)
青山:
ちょっとした雑学を耳元で教えてくれるだけでも、苦痛な道のりが逆に楽しい道のりになる。Locatoneを使うと、ありとあらゆるところに音を張ることができるので「音が出ない場所がない」ってくらいのツアーも作れます(笑)
宇津井:
身近にもよくよく見ると…なスポットはあるので、誰かに知ってほしい気持ちはありますね。そういったものを説明してくれるツアー、需要があるかもしれません。
次回はいよいよ最終回ですが、自治体やDMOがLocatoneをどのように活用すれば良いのか?について語っていただきます!
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