2026年07月17日配信
前回は「住居表示」について、その仕組みや地図への表示について事例を用いて解説しました。都市整備によって同じ土地の地上と地下に生活空間が生まれるなど、特殊な住所の表示が必要な状況が生まれたことも紹介しました。今回は住居表示における「街区方式」と「道路方式」という、住所特定の重要な役割を果たす二つの方式について解説します。
住居表示は、緊急車両の到着や郵便物の配達など、社会生活をスムーズにするために、市区町村などの自治体が管理・整備している住所です。
住居表示が導入される以前は、土地の所有権を示すための「地番」が住所として使われていました。しかし、時代を経るにつれ様々な問題が生じたため、その解決策として1962年(昭和37年)に「住居表示に関する法律」が公布され、全国で住居表示制度が実施されることになったのです。この住居表示には、大きく分けて「街区方式」と「道路方式」の二つの方式があります。

住居表示を実施している 地域の多くが街区方式を採用しており、これが主流となっています。 街区方式による住居表示は、原則として、「町名(丁目も含む)」「街区符号」「住居番号」で表示されます。
街区符号:道路や河川などの恒久的な施設によって区画された街区(道路などで囲まれた区域)ごとに与えられる符号です。
住居番号:その街区にある個々の建物に対して付与される番号です。
![[模式図]街区方式](https://mapple.com/hs-fs/hubfs/%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8%E5%86%85%E4%BD%BF%E7%94%A8%E7%94%BB%E5%83%8F/%5B%E6%A8%A1%E5%BC%8F%E5%9B%B3%5D%E8%A1%97%E5%8C%BA%E6%96%B9%E5%BC%8F.jpg?width=650&height=527&name=%5B%E6%A8%A1%E5%BC%8F%E5%9B%B3%5D%E8%A1%97%E5%8C%BA%E6%96%B9%E5%BC%8F.jpg)
【街区方式の住所例】 ○○町(町名)+①(街区符号)+1(住居番号)
日本における土地管理の歴史は古く、班田収授法や太閤検地に見られるよう、伝統的に集落単位(大字・小字)での緻密な管理体制が敷かれてきました。この土地に対する高い規律性と、日本の複雑な道路網や都市構造が相まって、空間を区画で捉える「街区符号」の方が、日本の社会にとって馴染みやすかったと考えられます。
街区符号には数字が使われるのが一般的ですが、必ずしも数字でなければならないというわけではありません。中には、漢字やアルファベットが使われている珍しい地域もあります。
大阪市中央区の久太郎町には、街区符号に「渡辺」が使われている地域があります。これは全国でも非常に珍しいケースです。その昔、渡辺氏という氏族が、神官として移り住んだという歴史があり、この地は「渡辺姓発祥の地」とされています。
このような歴史を持つこともあり、この地には「渡辺町」が存在していました。しかし、区の合併(東区と南区が合併し中央区が誕生)に伴い、住居表示が実施され「渡辺町」は消滅することになりました。この歴史ある名称を残すために、街区符号として「渡辺」が採用されました。
同じく大阪市中央区の上町には、街区符号に「A」「B」「C」が採用されています。このようなアルファベットを用いた街区は、全国でも大変珍しいケースです。
1989年(平成元年)に中央区が誕生した際、住居表示が実施され、それぞれの区にあった「上町」と「上町1丁目」が同一区内に存在することになりました。その結果、「上町1-1」という表記が重複する事態が起こったため、混乱を避けるべく、街区にアルファベットを採用するという斬新な発想によって解決が図られました。
近年、各地で旧町名を復活させる動きが活発になっています。町名を「歴史的文化資産」として後世へ継承することを目的に、条例を制定する自治体も現れました。その多くは大字や町名を変更するものですが、埼玉県鴻巣市では「街区符号」に旧町名を復活させるという手法をとっています。
「人形の街」として知られる鴻巣市は、古くは中山道の鴻巣宿として、大名をはじめ多くの人々が往来した歴史を持ちます。時代の変遷とともに当時の町名は姿を消していき、町内会などで使用されていましたが、再開発事業を機に、公園の街区符号として「本一町」や「宮本町」を復活させました。その後も「石橋町」「富永町」「鞠子」「新屋敷」「相生町」「防山」といった旧町名が、公園や学校の敷地の街区符号として付与されています。これらの名称は公共施設の敷地に付与されているため、市民の日常生活への影響を最小限に抑えつつ歴史を継承する形となっており、歴史を慈しむ鴻巣市独自の姿勢が、この施策の意義深さをより確かなものにしています。
岐阜県岐阜市の金華山の北西に位置する、標高68メートルの鷺山(さぎやま)。この地はかつて、斎藤道三が自らの隠居の地として住んでいました。そんな道三ゆかりの地に隣接するのが「鷺山南地区」です。2019年(平成31年)の住居表示実施に際し、街区符号の頭に漢字の「南」が付与されることとなりました。
実施前の鷺山南地区では、1769番地2に約250世帯、1768番地5に約50世帯と、約300世帯がわずか2つの地番を住所として使っている状態でした。そのため、郵便物の誤配や訪問時の案内が困難になるなど、日常生活に大きな不便が生じていました。
事例3において、団地に付与されたアルファベットの街区符号を紹介しましたが、これは「住居表示の特例」とされています。大規模な団地では、一般的な市街地とは少し異なる独特のルールで住所を設定することが認められています。これは、たくさんの人が暮らす団地の利便性を守るための「特例」で、特徴は次のようになっています。
その区域がひとつのコミュニティとして分かりやすいよう、「○○団地」という名前を正式な町名に設定することができます。また、街区方式では道路で街区を区切りますが、団地の特例では建物(棟)が建っている場所ごとに区切ることが認められています。
住所をわかりやすくするため、団地で使われている「棟番号」を街区の番号(番)に、「各戸の番号」を住居の番号(号)として設定できます。また、すでに棟番号が順序よく振られている場合は、混乱を避けるためにその番号をそのまま使うことができます。
特例を使うと、住所は以下のような構成になります。
○○市 ○○団地(町名) ○番(棟番号) ○号(各戸の番号)
※「○番」の部分に棟番号を、「○号」の部分に各戸の番号を当てはめることができます。
このように、住んでいる人や訪ねてくる人が迷わないよう現場優先の仕組みとなっています。
町名(堤団地・宝台団地)と街区符号の号棟(青色の数字)
住居表示では街区方式が主流ですが、道路方式も皆無ではありません。道路方式は、道路の名称、あるいは道路に接する建物に付けられる番号を用いて住所を表示します。道路方式は、初めてその場所を訪れる人でも通りの名前を基準に場所を把握しやすく、道案内に優れているという利点があります。その一方で、道路が碁盤の目のように整然と整備されている地域でなければ、その効果を十分に発揮しにくいという課題も併せ持っています。
【道路方式の住所例】 ○○通り(町名)+1(住居番号)
マップルの地図では、街区方式と道路方式で、表記に工夫を凝らしています。
街区方式:町域の中央に町名の文字を配置し、街区(例:道路で囲まれた区域)の中央に街区符号、街区の四隅の内側に住居番号を表記しています。
道路方式:この方式の利便性を活かすため、町域の中央に表記することを意識しつつ、道路に沿わせる形で文字を配置。それぞれの町名が規則正しく並ぶよう他の文字要素との重なりを調整することで視認性を高めています。
街区方式
道路方式
最後は、住居表示の道路方式とは関係ありませんが、道路を中心に設定された町域ということで愛知県名古屋市の事例を紹介します。名古屋市昭和区にある「塩付通(しおつけとおり)」は、かつて信州方面へ塩を運んでいた街道が由来で、通り名そのものが町名として採用されています。地図を確認すると、町域が道路の両側にまたがって広がっており、隣の町域との境界は道路沿いではなく街区の中にあります。これは、道路を挟んで向かい合う家々を一つの街としてまとめる「両側町(りょうがわちょう)」という町割りで、城下町などで見られます。
最後に特殊な例として、「街区」を付与するという意味で、区画整理事業地における「仮換地街区番号」というものがあります。区画整理事業の期間中に仮の番号として付与されるのが「仮換地街区番号」です。街区番号と呼ばれてはいるものの、こちらは地番扱いとなります。そして、仮換地街区番号は、住所として利用することができます。しかし、事業が完了すると新たな番号が付与されるため、住所としての登録や登記をこの仮の番号で行うと、後に新たな番号へ変更の手続きを行わなければなりません。
今回は、住居表示における街区方式と道路方式という二つの方式について紹介しました。日本では街区方式が主流ですが、地形や歴史的経緯を反映し、道路方式や道路を基準とした住所が採用されている地域も少数ながら存在します。住所は、単に場所を示すだけでなく、その地域の歴史や風土、そして人々の生活様式を映し出す奥深いものでもあります。
次回は、日本の住所を構成する基礎的な要素を取り上げます。私たちが日常的に使っている住所には、明治時代の合併によって消滅した村の名称や、古くからその土地で使われてきた地名が今も残っています。旧村の名称を引き継いだ「大字(おおあざ)」、さらに細かな地名である「小字(こあざ)」、そして都市部を中心に整備されてきた「丁目」。これらがどのような定義に基づき、使い分けられているのか解説します。