9月1日は「防災の日」。1923年に関東大震災が発生した日でもあります。
100年以上前の出来事なので、ほぼ全ての人にとっては実際に経験しておらず記録でしか知ることができませんが、10万人以上の方が亡くなる、もしくは行方がわからない、という甚大な被害をもたらした災害でした。
その後も幾度となく大きな震災が発生しており、また、今まさに南海トラフ地震の発生が懸念される状況になっているなど、我々日本で暮らす人々にとっては常に地震の脅威に直面しているという状況です。
そこで来る「防災の日」、そして防災の日を含む1週間(8月30日~9月5日)の「防災週間」を機に、本稿では、地震、洪水、土砂崩れといった災害を想定して、どうしたら災害の脅威をより具体的にイメージできるか、どのようにして対策を考えていくか、昨今オープンデータとして広く認知・活用されているハザード情報等を用いながら述べていきます。
目次
どのような被害にあう可能性があるのか?ハザードマップで認識する
- 過去の大地震ではどのような被害が起こったのか
- ハザードマップで広い範囲を見ることで自身の地域の特性を知る
- ハザードマップで危険な場所を認識したら、避難場所を把握する
- 危険情報がわかれば、それに対する備えができる
災害時の徒歩帰宅について
最後に
過去の大地震ではどのような被害が起こったのか
過去の大震災の被害状況からもわかるように、一般的に大地震による被害として言われるのは、「建物の倒壊」「火災」「津波洪水」「土砂崩れ」が主なものです。建物の倒壊は、土地の脆弱さに起因することが多く、例えば盛土によって形成された土地だったり、かつて湿地や沼地だった土地が埋め立てられたりした箇所などで倒壊のリスクが高まります。
また、倒壊や火災は木造建造物が密集するエリアで発生しやすいですし、津波や洪水が多くの人の生命を奪っていきます。生命が助かったとしても、生活や事業の拠点となる建物が損壊し、多くの人々の日常の暮らしが奪われてしまいます。
ひとたび大きな地震が発生すれば、このような甚大な被害を覚悟しなければなりません。
ハザードマップで広い範囲を見ることで自身の地域の特性を知る
従来より各自治体などでは、様々な形でハザードマップが作成され、一般に配布・公開されています。しかしながら、そのハザードマップを使って、実際の対策を立てるに至ったケースは少ないのではないでしょうか。
その一因として、大抵の配布されるハザードマップには自分の住む地域、もしくは自社の存在する地域についての内容しか掲載されていないことが考えられます。
一方で、国土交通省が公開するオープンデータ(国土数値情報)には全国のエリアが整備されており、自身が位置する市町村だけでなく、近隣の市町村を含めた広い範囲のハザード情報を見ることができます。それによって、自身の位置するエリアの特徴を知ることができたり、例えば通勤経路や配送ルートなど、移動を考慮した情報収集が可能となるなど、より具体的・実践的な見方ができるのです。
では、その点を踏まえた上で、国土数値情報のデータを実際に見ていきましょう。
マップルでは、国土数値情報のデータを独自に加工、皆さんが無償でダウンロードできるサイトをご用意しています。ダウンロードしたデータは、マップルの地図ソフト「スーパーマップル・デジタル25」で表示・閲覧できます。
ここではスーパーマップル・デジタル25の表示画面を見ながら解説していきます。
サンプルとして、拠点の位置を昭文社ホールディングスが位置する東京都千代田区麹町3-1とします。
麹町に絞ってハザード情報を表示させるとどうでしょうか?
※「スーパーマップル・デジタル25」では、行政区域(市区町村や大字・町丁目)を個別にハイライト表示することができます。
「麹町」の区域外にはハザード情報(急傾斜地の崩壊)が何か所か表示されるものの、「麹町」区域内にはハザード情報が存在しないため、実際の災害イメージがピンと来ないという印象を受けるのではないでしょうか?
これを都心部全域を含めた広域なエリアで見てみるとこのような表示になります。
「麹町」エリアは赤丸の部分です。(赤丸は解説用に追加追記したものです)
各地に、麹町周辺の地図ではわからなかった、かなり危険なエリアが点在していることがわかります。
江東区や江戸川区の大半のエリアが赤く染まっていますが、「高潮浸水洪水エリア」に該当することを示しています。また、麹町の北部にあたる文京区や南部にあたる港区には「急傾斜地の崩壊」の危険性がある箇所が点在していることが見て取れます。
単純な見方をすれば、麹町エリアは他のエリアに比べると比較的危険度は低いと見ることができます。その上で、麹町エリア内に危険度が高い場所があるのか、その付近の避難施設はどこにあるのか、などという見方をしていきます。
また、日頃からなじみのあるエリアなら、なるほど確かにここは坂道になっているな、とか、急流の川が蛇行している、などといった実際の地形と、そこに潜在する危険要素と結びつけることもできます。
このような見方をしていくと、これまでよりも具体的に内容を確認していくことができるというわけです。
地図を拡大していくと、①の箇所には神田川が流れ、その流域は低地が続いていること、②の箇所はかつての江戸城の外濠があったところに該当する高低差が大きいことが思い起こされます。なるほど、ああいう地形のところが、災害が起こった時にはリスクがあるんだなと気づくことができたら、対策を準備していくのに大きなノウハウとなります。
ハザードマップで危険な場所を認識したら、避難場所を把握する
前述の広範囲の地図を見てわかるように、海や川といったいわゆる水部付近にハザード着色されている傾向が見てとれるようになってきます。一般的な傾向として、海に面しているエリアや河口付近は津波や洪水の危険性が高いので、地震発生後はその場所から離れることが重要だということに気づくことでしょう。
その際には高い場所への避難が必要になるので、しっかり地図上で安全な高所を見つけるか、見当たらない場合は公共施設などの堅牢な建物の上層階に避難することになります。
※下図は、当社マップルが整備した「帰宅支援マップデータ」から避難所の情報を地図上にプロットしたものです。
危険情報がわかれば、それに対する備えができる
リスクの高い場所に住まいや事業所があるからといってそう簡単に移転することはできません。だからこそ、自身のリスクを認知して避難訓練をしたり、避難方法をシミュレーションすることが有効な対策となります。
あるいは、建物の補強をすることで倒壊のリスクを軽減できる可能性もあるので、土地の脆弱性が言われるエリアであれば、自治体の助成制度を確認するなどして万全な対策を取りたいところです。
挙げきれないほど様々な対策があると思いますので、ぜひこの機会に地図を確認し、対策を検討してみてください。
大きな災害になれば、公共の交通機関は停止し道路も大混乱となりますので、帰宅するとなると歩いて帰るしかありません。家族の安否などを考えると一刻も早く帰宅したいところではありますが、安全に帰宅できるのか、ハザード情報と帰宅ルートを照らし合わせたうえで冷静に考えておく必要があります。
当社グループの社員が実際に東日本大震災時の経験を振り返ったコラムを公開してますので、こちらも是非ご覧ください。
「すぐに行動しない勇気」東日本大震災直後、実際に40km以上も歩いて自宅を目指した社員が思う、地震時の行動
歩いて帰れる距離なのかどうか地図上で検討する
歩いて帰宅できる距離は20キロ程度と言われています。
もっと歩けるはずだ、という声もあるかもしれませんが、やはり地震発生時は道路状況や路面の状態が通常とはまったく異なるということを頭に入れておかなければいけません。
そのため、現実的に歩ける距離としては10キロと考えることがひとつの目安になります。
そこで、昭文社ホールディングス(東京都千代田区麹町)から帰宅できる10km圏内を地図上に示すと以下のようになります。(赤丸や地名のラベルは解説用に追加表記したものです)
千代田区麹町を起点にした場合、ほぼ環七通りの内側が該当しますので、意外と狭い範囲だなという印象を持つ方も多いのではないでしょうか?途中の通過箇所に被害が発生することも想定されますので、そこは避けて遠回りしなければならないことを考えると、実際の状況にもよりますが円の範囲内くらいがおおむね帰宅可能なエリアと言えそうです。
状況によっては『もう少し行ける』と思われるかもしれませんが、ここで注意したいのは大きな川です。
特に、北部のさいたま市や川口市方面に向かう場合や、東部の江戸川区や市川市、北東部の葛飾・足立区に向かう場合、大河川・荒川を渡る必要があります。まず、橋が落下している可能性がありますし、落下していなくても渡行中に大きな揺れが発生した場合は恐怖でしかありません。さらには、荒川の付近はどこも低地なので、渡った先の道路が冠水して歩けない状態になっている可能性があります。
このことからも、リスクが予見される場合には、安全策を講じることが必要になります。
具体的には、圏内の範囲にある避難施設を検索しておくとよいでしょう。歩いて帰れる場合の休憩場所となり、飲料や電気の補給場所になりうることが期待できます。
参考として、千代田区麹町からおよそ20km圏内のハザード情報を見ていきます。エリアとしては外環道付近までになるのでかなり広がりますが、方面によってリスクの状況が異なってくるので注意が必要です。
まず、東方面の江戸川区・葛飾区や、市川市・松戸市などの千葉西部方面です。10kmの範囲と同じことが言えますが、ハザードエリアとして着色された区域がほとんどを占めています。仮に地震による津波のリスクは低かったとしても、地震の強い揺れによって河川の堤防が決壊したり地面が液状化することが十分考えられます。この方面へは、帰宅よりもその場にとどまる選択をした方が良いのかもしれません。
次に北方面のさいたま市や川口市方面を見ていきます。(都道府県によってハザード情報の表現が異なる場合があります)
この方面は荒川を渡ることが大きなハードルになります。荒川の被害状況やその向こうの埼玉県側の状況などを想定したうえで、あらかじめ最適な帰宅ルートを検討しておく必要があります。
西方面や南方面についても同様に多摩川を渡ることが大きなハードルになります。また、臨海部や河口に近いエリアは水害のリスクが、内陸部は急傾斜地の土砂崩れのリスクがあるので、やはり、あらかじめ被害が最小限になるであろう最適な帰宅ルートを検討しておくことがポイントになります。
いずれにしても、各所で大きな被害が発生していることが考えられますので、その時の情報によって最適な判断をすることが求められます。そのためにも、事前にできるだけ十分な想定をしておくことがその場の判断に役立つはずです。
災害発生時に本当に役立つ情報とは
近年、インターネットによって情報の入手や伝達が格段に向上しており、本稿で紹介したオープンデータはその代表的な事例でもあります。しかし、平時であれば簡単に入手、閲覧できる情報も、ひとたび災害が発生した際には活用できなくなるリスクがあることは誰でも想像がつくところでしょう。
携帯性に優れたスマホであっても停電した場合には、予備バッテリーを使用したとしても、停電に備えてスマホの利用を制限せざるを得なくなります。また、通信が遮断されてしまうことも十分あり得ます。
普段移動する際、みなさんはスマホで地図を利用しているのではないでしょうか?
もし通信が遮断されたら、地図を見ることさえできなくなってしまいます。そんなこと想像できますか?
とはいえ、今や紙地図を常に携帯することは考えづらいです。例えばPC上で表示した地図の画像をスマホに保存しておけば、スマホの電源さえ確保できていたら自身で作成した危険情報や避難情報などを災害時でも携帯して閲覧することが可能になります。
情報の入手にはやはり携帯ラジオがいざという時には有効というように、やはり災害時にはこうした原始的なものが重宝されるということも確かです。このコラムや、ここで紹介した地図やハザード情報がみなさまの生命を守る道標となれば幸いです。