コラム

地図の雑学|留萌港(北海道)~水面の筆から壮大な都市計画の姿が見えてくる~

MAPPLE法務局地図ビューアで見つけた気になる筆
マップルラボで公開している MAPPLE 法務局地図ビューア。全国の登記所備付地図データをマップルのベクトルタイル上に地図展開し、筆(土地)情報や形状を確認することができます。今回、MAPPLE 法務局地図ビューア(地図)を使って全国で見つけた気になる筆とその土地にまつわる話を紹介します。

◆No.8 留萌港(北海道)~水面の筆から壮大な都市計画の姿が見えてくる~

北海道留萌市は留萌川の河口に位置する港湾都市です。留萌市には巨大な港「留萌港」が整備されており、古くは北前船が寄港する港町として、近代では留萌港を拠点としたニシン漁で発展しました。現在の留萌市は塩数の子の加工生産量日本一になるなど、水産加工業が盛んな港町であるだけでなく、国や北海道の官公施設が集まる行政の中心都市となっています。

この場所をMAPPLEのベクトルタイルで見てみる

地図で留萌市を見ると、留萌港や留萌川の水面に筆(土地)があることが分かります。筆(土地)の形状を見る限りでは、住宅や道路の筆(土地)であったように思われます。果たして水面にあるこの不思議な筆(土地)は一体何を意味しているのでしょうか。

その昔、留萌川の河口付近は「ルルモッペ」と呼ばれていました。「ルルモッペ」とはアイヌ語で「潮の静かに入るところ」や「汐が奥深く入る川」という意味であるとされています。そして、「汐が奥深く入る川」とは留萌川を指しており、留萌市の市名はこの留萌川が由来になっています。留萌川は今でこそ、市街地の北西部を流れていますが、実は河川改修によって流れを変えています。古い地形図を見ると、当時の留萌川は今の留萌港のあたりを蛇行しながら流れており、現在港がある場所は、当時は陸地でした。

留萌では江戸時代より、交易する場として「ルルモッペ場所」が開設、港が整備され海産物の取引が盛んに行われており、多くの船が行き交いました。明治時代に入ると大型化した船が停泊できる港の整備に迫られ、調査や計画の立案などを経て、大正時代に留萌港の港湾整備が始まりました。

昭和時代に入ると、北海道で産出される石炭を留萌港から輸送するために対応する港の機能拡充が求められます。その結果、港湾整備は港の造成だけでなく、留萌の街全体にも及びました。港に流れていた留萌川を直接日本海に流すために新しい水路を開削して流路を変え、市街地を蛇行していた河川は埋め立てられ、商業地や住宅地として開発されました。まさに港湾を中心とした街づくりです。こうして留萌の厳しい気象条件の中、最先端の港湾土木技術を導入した結果、昭和初期には現在に繋がる留萌港と留萌の街が誕生しました。

改めて地図で水面にある筆(土地)と古い地形図を比較すると、留萌港は市街地を蛇行していた当時の留萌川に沿って造成されたことが分かります。また、留萌川の流路が変わっており、陸地であった場所が開削されていることも分かります。

留萌港と留萌川の水面に残された不思議な筆(土地)から、港と共に発展してきた留萌の歴史と、港を中心に行われた留萌の壮大な都市計画の姿が見えてきます。

出典:
「登記所備付データ」(法務省)を加工して作成
明治31年製版同42年部分修正測図同44年改版 5万分の1「留萌」 陸地測量部

「地図の雑学」
「地図の雑学」は地図技術者・地図編集者が「地図の制作にまつわる話」や「地図を使った楽しみ方」を紹介するコーナーです。
> これまでの記事一覧はこちら

COLUMN一覧へ