コラム

通学路の安心・安全は「守るもの」ではなく「積極的に守るもの」

このコラムを公開した10月11日は、政府が定める「安心・安全なまちづくりの日」に指定されています。

安心した生活を送れる社会の実現は、「地図」に課せられた使命です。マップルでは、地図のプロフェッショナルとして、地域の安心・安全に貢献するソリューションを数多く揃え、人々が安心して暮らせる仕組みづくりに貢献しています。

今回はそれらソリューション群の中から、自治体・学校向け安全支援サービス「通学路安全支援システム」の企画担当 横山 正 に現在の具体的な取り組みについて話を聞きました。

~~ 早速ですが、まだご存知でない方も大勢いらっしゃると思いますので、まずは製品の概要から教えてください。

横山:
日はよろしくお願いいたします。この通学路安全支援システムですが、一言で説明するなら、学校に通う児童の自宅と通学路、地域の注意箇所等の情報をまとめて地図上で可視化できるパソコン用ソフトウェアです。
詳細は過去のコラム記事でご紹介していますので、そちらも合わせてご確認いただけるとより理解が深まると思います。

◆ 通学路安全管理のための協働活動において、マップルにできること。
https://mapple.com/column/20211130/
◆ 通学路の安全対策の状況とマップルが進める安全支援
https://mapple.com/column/20220331/

今回は過去のコラムとは趣旨を変えて、最新の取り組み状況を中心にご紹介したいと思います。
では早速ですが、学校の周りの情報を地図上に表示できることでの一番の効果は何だと思いますか?

~~ 色々なものが見えてきそうですね。学校と各児童の自宅の位置関係、通学路の危険な箇所などでしょうか。

横山:
づくことができる、というのが最大のポイントです。いくら豊富に情報を持っていても、それらが文章やリストの状態だとどうしても空間的なイメージで捉えることが難しくなってしまいます。
これだと、気づけるものも気づけなくなってしまう。
ですので、情報の可視化という意味だけ考えれば、極端な話、紙の地図に手書きで情報を書き込んだものだってある程度の効果が出せると考えています。

~~ でも、紙の地図で情報の可視化をさせるのは大変そう。。。

横山:
すよね~。手書きの文字は、字やレイアウトのキレイ、キタナイで見栄えが大きく変わってきます。作成者のセンスやスキルによって成果はマチマチですし、記載の情報量が多いと、ものすごく時間もかかってしまう。
しかも、一度作ってしまうと、簡単に追記したり削除したりができないという問題も。現実世界の情報は日々刻々と変化していくのに対して、この運用では到底追従できない。
だからこそ、デジタルの地図を使って、学校の周辺の情報を管理することに特化して作られた専用システムの重要性が出てくるのです。
これが、今日のこの後の話の一番のキモとなってきます。

~~ それでは本題へ、ということで最近の取り組みについて教えてください。

横山:
心・安全をさらに追求するにはどうすればよいか?という命題に対しての答えの1つとして、昨年(2022年)春、損害保険業界大手である三井住友海上火災保険株式会社様(以降、三井住友海上様)と協業する形で新たに同社が保有する「事故データ」をシステム内で連携するようにしました。その結果、読み込んだ事故データを緊急度の高い危険箇所として地図上に表示できるようになり、より安全な通学路の策定、より効率的な点検作業、より効果的な対策立案が可能となりました。

事故地点表示(例)

※事故地点表示(例)

事故エリア表示(例)

※事故エリア表示(例)

~~ それは大きな進化ですね。餅は餅屋じゃないですが、事故の情報は地図屋のマップルではなく、専門家である三井住友海上様に任せるのが確かに一番ですよね。異なる業種の企業同士が組むことで相乗効果もあるのではないでしょうか。

横山:
強いパートナーです!両社でアセットとリソースを出し合い協力することで、1社単独では解決することが難しい問題を解決できるようになり、ビジネスがより一層加速しました。
それを証明し、さらに加速させるため、前述の事故データ連携バージョンを使って、昨年度(2022年度)1年間かけて、両社で全国の自治体を対象に実証実験を実施しました。

~~ 大々的に実証実験を行ったのですね。

横山:
定していて枯れているシステムではなく、まだまだ発展途上のシステムということで、まずは実証実験という形で、幅広いお客様(自治体、教育委員会、学校)にシステムを知っていただき、使っていただき、そして便利さを体感していただくところに力を入れました。
どんなにいいコンセプトを持ったシステムでも、知られていない、使われていないですと、全く意味を成さないので。。。

実証実験提案資料(当時)より抜粋

※ 実証実験提案資料(当時)より抜粋

~~ どのくらいのお客様が実証実験に参加されたのですか?

横山:
て数えると、40以上のお客様(現在進行形を含む)にご参加いただきました。
どのお客様も、通学路の安心・安全に対しては非常に高い課題意識をお持ちで、積極的に取り組んでいただきました。
中には、この実証実験の取り組み自体をプレスリリースや定例会見などで、地域の住民や対外的に大々的にアピールされたお客様もいらっしゃいました。また、この取り組み自体、数多くの新聞記事、ネットニュースでも取り上げられ、高い関心があることがうかがえました。

~~ 実証実験の結果としてはどうだったのでしょうか?

横山:
んと言っても、圧倒的に多かったのは、「複数の学校の情報を横断的に閲覧できるようにしてほしい」という声でした。
自治体(市区町村)やその教育委員会の担当者が、管轄の学校の情報を横断的に閲覧、管理したいというユースケースがあるといえば、わかりやすいでしょうか。
実は、この通学路安全支援システムですが、当初より、
・ 児童の名前や自宅住所などの個人情報を扱うこと (意図しない流出事故リスクも考慮)
・ 学校現場では、インターネット環境に制限があるケースが多いこと
などという理由で、「情報はあえて共有させないスタンドアロン型システム」というコンセプトで企画、設計されていた製品でした。

~~ スタンドアロンはよいが情報共有はしたい、と。

横山:
ったくもってその通りです。よく考えたら当たり前ですよね。自治体(教育委員会)が全校一斉導入をかけても、実際に各校でどういうデータが作られ、どういう運用がされているか?が把握できなかったら意味がないでしょう。全てと言ってもいいお客様から要望をいただきましたし、中には、「自治体(教育委員会)側が各校のデータを閲覧、管理できる仕組みができるのなら、すぐにでも本採用したい。」とまで言われるお客様までいたくらいです。

~~ 他に実証実験を通して、印象的な出来事はありましたか?

横山:
ょっと驚いたのですが、お客様と会話している中で、その地域特有の通学路の課題があることがわかりました。特に北国に多くて、例えば雪かきした雪を山にして積んでおく「雪置き場」や、「クマ出没地点」なども危険地点として管理したいというお声がありました。あとは、路肩の用水路も雪がある地域だと、上に雪が積もっていてそこに用水路があることがわからない状況だと危険度が増します。そういった地域性のある管理項目は予め用意している項目にはないのですが、カスタム項目として追加できるようにしています。

あとは、これは嬉しかったという意味で非常に印象的でしたが、実証実験に取り組んでいただいたお客様、特に学校現場の担当者からは非常にいいフィードバックをいただきました。その中でも某自治体様を訪問した際には、同席の学校側から、
「3月末で実証実験期間が終了するが、便利なので4月以降も(自治体が本導入を決めるまで)継続して使わせて欲しい。(自治体担当者に向かって)早く本導入決めてね。」
というありがたいお言葉をいただきました。担当冥利に尽きる、とはまさにこのことでしょう。
一方、たくさんの改善ご要望もいただくことができました。それらのありがたいご要望こそが、今回のリニューアルに至った一番の動機です。

~~ 有意義な実証実験だったことがよくわかりました。さて、実証実験を経て今後システムはどうなっていくのでしょうか?

横山:
りかえ、と言ってもいいくらい大規模なシステム改修を行う決断をしました。そして、今月頭(2023年10月)に無事にシステムリニューアルを行うことができました。

~~ システム改修のポイントを教えてください。

横山:
ニューアルにあたっては、前述の実証実験の結果を大いに参考にさせていたきました。
ポイントは大きくは3点です。

システム改修のポイント

① 情報共有機能の強化
これはほぼ全てのお客様からご要望いただいたところで、今回の一番の目玉機能です。
具体的には、各学校が登録した通学路や点検結果の情報を、データとして自治体や教育委員会に渡すことで、複数学校の情報を横断的に閲覧、管理することができるようになりました。
もちろん、個人情報の取扱いには引き続き十分に配慮していますので、児童の名前や自宅の住所といった個人情報は今回のデータ共有の対象外としています。
その他でも、例えば、こども110番の家の場所や、朝夕の旗振り地点の情報など、システムに入力するのが大変、という声を受けて、それらの個別に作られたデータをシステムに取り込んだり 、システムから出力したりする機能も追加しました。

地点情報インポート

② 表示編集の自由度Up
これまで地域情報として管理対象としていたのが、ガードレールなしやブロック塀など、危険要因となる地点や、逆にこども110番の家や監視カメラ等、安心を守るための地点でしたが、そういう用途ではなく、地図上に自由にコメントを重ねたり、学区の境界線を描いたりしたいという要望に応えるため、地図に図形(面、線、点、文字)を記入できる「カスタム情報」という概念を導入しました。
また、一部のお客様から要望があった1つの通学路が途中で分岐しているケースや小中一貫校(9年制)へも対応するなど、細やかなところまで気を配りました。

任意の図形登録

③ ユーザビリティ向上
システムの全般的な使い勝手、視認性の向上も意識しました。一例ですが、このシステムは印刷できることが当初よりの大きな特長の1つだったのですが、印刷した際に地図上に記載された地域情報地点がリストのどの項目と整合するのかが一目でわかるID付番する機能、地域情報などを登録した際に、手入力が面倒な住所文字列を住所欄にシステムが自動的に補間入力してくれる機能、システム内ウィンドウのサイズ、閉じる開くを柔軟にできる機能などを追加、改善しました。

~~ すごいですね!今のお話を聞いて、システムが大きく変わったことがよくわかりました。さぞ、改修は大変だったでしょう。

横山:
じみ出てしまってましたかね。トークの端々で我々の苦労の跡が(笑)。要望から改修することは決めたものの、それをどう実現するかについては、すんなり決まったものはほぼないと言っていいくらいに少なく、関係者で集まって、ああでもない、こうでもないと意見をぶつけながらブラッシュアップして、最終的に今の仕様に決まりました。
あの頃を思い出すととても大変な毎日でしたが、その分、こうして実際にものが出来上がってくると感慨もひとしおです。

~~いいものはできました。お客様側の運用は大丈夫でしょうか?

横山:
り添っていくことが重要だと考えています。通学路の安心の管理については、今までシステム化されてきていなかったということもあり、また、先行事例があるわけでもありませんので、導入現場ではこなれるまでは多少なりとも試行錯誤するシチュエーションは発生することが容易に想像できます。ですので、導入時の丁寧な説明はもちろん、いつでもどこでも見られる動画やFAQ、TIPSなどもあると便利だと考えています。それらの内容を含めたサポート体制を三井住友海上様とも連携して、より一層充実させ続けていくことも我々の大きな使命です。

あとは、当然のことながら製品を使っていただく前段階として、まず製品を知っていただくことも同じくらい重要です。知らない限りは、使うということにはならないので。

そういう意味で、プロモーション活動、製品露出についても力を入れていきます。先日、「通学路安全支援システム」がテレビで紹介されました。
※ BSJapanext局で放送の『西川貴教のバーチャル知事』
番組内では、三日月大造滋賀県知事に本システムが紹介され、知事の口からこういったシステムに対して「使えるんじゃないかな」という心強いコメントをいただけたんです。

~~ おおすごい!県知事さんのお墨付きをいただけたということでしょうか。

横山:
って力がある、とはまさにこのことでしょう。このようなコメントをいただけたことは大変ありがたく自信にもなりますが、謙虚に受け止めておきたいと思います。

~~ 最後になりますがまとめをお願いします。

横山:
ばらくの間、改修されたシステムのプラス面アピールを続けてきましたが、通学路の事故は全国各地で毎日のように発生しているのが現実です。
政府が指示して通学路の全国一斉緊急点検を行うことのきっかけにもなった、2021年に下校中の児童の列に飲酒運転のトラックが突っ込んで5人が死傷した八街市の痛ましい事故はもちろん、つい先日も福井県の鯖江市で、登校中の小学生の児童が倒れてきたブロック塀に足を挟まれ足の骨を折る大けがをするという事故が起きてしまいました。

実際にそのような事故を望む人なんて1人もいません。でも、一方で事故がいつどこでどんな形で起きるかなんて予測不能。その状況下で我々は、事前に予測できないからと言って何もできず、事故が発生してからその内容、結果に基づいて「事後に」対策するしかないのでしょうか。

重要なのは、通学路の安心・安全を「積極的に守る」ことだと思います。
車、災害、不審者など、さまざまな通学路上の危険を「事前に」網羅的に想定し、それらに遭遇する確率をゼロにするのは難しいとしても、できる限り低くするよう取り組み、管理し、そしてそれを継続するべきです。

そこまでできれば、通学路を単に「守っている」ではなく「積極的に守っている」と言えます。
もちろん言うのは簡単ですが、実際にちゃんとやろうとすると手間も費用も時間もかかります。ですので、できる限り効率的に管理、運用する方法が必要であり、議論を理想論ではなく、現実論に落としていかなくてはいけないのです。

~~ 通学路の安心・安全を「積極的に守る」ために、このシステムがどんどん活用されるとよいですね。

横山:
だ、あくまでシステムは運用を手助けするツールであり、それを使うのは人間ということです。
お客様自身が(システムを上手く活用しながら)、どうやって通学路の安心・安全の確保に取り組んでいくのか。学校現場単独でなく、自治体や所轄の警察、道路管理者、保護者、地域住民など関係各所と中長期的スパンでPDCAサイクルを回しながら日々活動していくことこそが一番重要であり、本システムによってその負荷軽減や業務の効率化、情報共有、地域社会との連携をご支援できると確信しております。

~~ 本日はありがとうございました。進展があったら、またお話を聞かせてください。

横山:
つでもOKです!お待ちしております。


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