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マップルが提供するデータ品質の価値と取り組み

昭文社グループの各種データ製品の制作は、グループ企業の「株式会社昭文社クリエイティブ」にて行っています。今回は様々なシーンで利用されているマップルの地図データにとって重要な「品質管理」について、品質管理部門の責任者として全般のマネジメントを行っている昭文社クリエイティブDC制作部マネージャーの井上大輔に話を聞いた。

 目次 
昭文社クリエイティブについて
品質管理部門の業務とは
意識していること
工程改善の取り組み
最後に


昭文社クリエイティブについて
– まず昭文社クリエイティブの企業概要と事業内容を教えていただけますか?
元々は昭文社デジタルソリューションという社名でしたが、2017年から昭文社グループのデータ構築を担う企業としてのイメージを分かりやすく表現するため、現在の社名に変更しました。主な事業としては「デジタルコンテンツの整備・構築」ということになりますが、業務としては情報の調査収集からデータ制作、品質管理など多岐にわたります。メディア事業を行っている昭文社で利用される地図や観光コンテンツ、データソリューション事業を行っているマップルの提供コンテンツも当社で構築していますので、お客様への対応なども含め、グループ会社と一丸となって取り組んでいます。

品質管理部門の業務とは
– 今回は「品質」がテーマですが、品質管理部門ではどのような業務を行っていますか?
マップルは、長きにわたって信頼出来る地図や観光データを多くのお客様に提供されていますが、そのようなマップル製品への信頼を担保する上でも私たち「品質管理部門」は大変な重責を担う部門だと考えています。通常行う業務としては大きく分けると2つあり、設計通りに作業が行われているか確認する「プロセス監査」と予期しないエラーが発生した際の「不具合対応」を行っています。その他では毎年品質向上に向けた目標を定め、その目標を実現できるよう取り組んでいます。

– プロセス監査とは具体的にどのように行うのでしょうか?
これまでの経緯からお話しする事になりますが、過去には成果物の検査を行い、エラーのある製品が外部に流出しないよう取り組んで来たのですが、この取り組みでは成果物が出来上がってから検査を行うため、エラーを発見した場合、上流工程に遡って修正を行う必要があったり、制作部門と同じような内容の検査を品質部門でも重複して行うなどの作業が発生していました。
そこで、計画された通りの手法で作業が行われれば、適切なデータが作成でき、エラーの発生とコストも抑制できると考え、成果物を確認するのではなく、作業のプロセス・設計が適切であるかを作業開始時と完了後に確認するプロセス監査を行う事としました。
プロセス監査では、①作業開始時に必要な要件が明確になっているか、②その要件にかなった作業環境や検査体制が構築されているか、③スケジュール・リソースに無理が無いかなどを作業前監査として確認し、問題がある場合はこの段階で改善を図ります。
また、作業が終了した際には、①スケジュールや工程通りに作業が進行したか、②各種設定されている検査を正しく実行したか、③エラーは適切に修正されているか、などの視点でエビデンスを基に確認し、成果品が適切に作成されているかの確認を行っています。
作業をスタートさせてから要件が変わることもあるので、その際には途中監査を行い、作業要件が変わったことによる影響を解消できているか、変化に応じた作業・検査設計がされているかの確認も行っています。

– すべての案件に対して確認するとなると、かなりの労力ですね
そうですね、運用当初は色々と大変でしたが、現在では制作側の協力もあり、制作プロセスを遵守いただいているおかげで安定した制作業務が行えるようになったことから、監査自体もスムーズに進めることが出来ていますし、エラー発生率もかなり低いレベルに抑えることが出来ています。
一方で、新規案件及び変化点の生じた案件などはエラーが発生しやすい傾向にあるため、特に留意して取り組んでいます。変化点といってもかなり範囲が広く、人によっては変化点と考えないような事象もあります。そのため、業務における変化点とは何かを定義し、案件をスタートさせる際はチェックシートを基にまず変化点の有無を確認していただき、変化点ありとなった案件については品質部門が対策など講じられているかを確認するような仕組みで運用しています。

– もう一つの取り組みとして、不具合対応とのことでしたがどのような取り組みですか?
どの製造業にも言えることかと思いますが、どれだけ入念な検査を行った場合でも不具合の発生を完全にゼロにすることは困難ですので、万一不具合が発覚した際にお客様への影響が出ないよう、原因分析・対策を制作部門と一緒に検討しその結果を社内に周知する取り組みも重要な業務になります。
昭文社グループでは不具合に関する共通のレベル分けがあり、レベルに応じて適切な不具合報告書を起票し、グループ各社に向けて迅速に共有し、影響を最小限に留めることを周知徹底しています。
主な流れとしては、不具合の発覚当日に速報を関連部門に共有し、速やかに対応策を検討した上で早急な改善対応を図ります。その後、今後の再発防止策までを記した報告書を起票し、同様の不具合が発生しないような対策を講じています。不具合発覚から1週間以内にこの全てのプロセスが完了するような社内ルールを設けており、スピード感をもった運用を行っております。
また、その後の対策がしっかりと行われているかを第三者が確認し、その結果を関連部門に報告共有することによって一連の不具合対応が完結する仕組みとなっています。

– 影響度の低い不具合は、どのように扱われるのでしょうか?
レベルの低い不具合というのは基本的にお客様への影響が無いものになりますが、当社の取り組みとしては影響度の高い不具合と同様に社内の台帳に記録し、原因の分析、対策の検討と対策が実施されたかを品質部門で確認しています。
またお客様からの地図に関する経年情報などのご指摘については、不具合としての扱いではなく社内の指摘管理システムに登録・管理したうえで、ご指摘いただいた個所の事実確認を行い、適宜地図への反映を行っており地図の鮮度を保つうえで貴重な情報源にもなっております。

– 地図や情報などのデータ製品の品質管理は少し特殊な分野だと思いますが、一般的な製造業との違いや難しさはどのような点になりますか?
工業製品の部品などは統一された規格で機械的に量産するため、検査やテストの項目をきっちりと定義して効率良く生産しているようなイメージがあると思います。一方、データ製品や情報収集においては、同じ“ものづくり”でも機械的に同一製品を作るという類のものではないため、検査する対象や内容が毎回異なりますし、イレギュラーケースが発生することも多く、そういう意味では常に新たなリスクと隣り合わせだと感じています。
例えば、経年情報を収集する際に様々なデータフォーマットが登場しますが、そのデータフォーマットが突然変わることもしばしば起こります。また、地図データにおいてもデータフォーマット上は許容されるものの、表記上はエラーになるものもあり、目視検査に頼らざるを得ないケースも発生します。
発生したイレギュラーケースが今後も継続するのであれば検査プログラムを開発することを優先しますが、一過性のものである場合や同一の検査プログラムでは対応出来ない場合も多く発生します。また、エラー発生の確率や検査プログラムの開発コスト等も鑑みて対策を検討するなど一筋縄ではいかない場合も多く、この点は難しさを感じます。
さらに、経年情報を速やかに地図データに反映し、データの鮮度を保つことが我々の使命でもあります。例えば、重要な鉄道駅の開設や話題性が高い商業施設の開設が、データ修正完了直後の工程で初めて判明することもあります。このようなイレギュラーケースへの対応は地図データ工程ならではのものです。

意識していること
– 制作部門とコミュニケーションをとる場面も多いと思いますが意識していることは?
品質部門と制作部門はフラットな関係であり、私たちは制作部門をサポートする位置付けだという点を意識しています。例えば、作業環境や検査項目に不足がある場合、制作担当が「不備を指摘された」ではなく「提案してもらって助かった」と受け取れるようなコミュニケーションを心掛けています。全社的に”お客様にご迷惑をお掛けしない”という強い共通意識があるので、部門をまたぐコミュニケーションもスムーズに出来ています。
実際の業務としては、不具合の原因を多角的に分析することと、対策を検討する中でコストが不用意に増大しないように気を付けていますね。コストが増大するということは、結果的に原価の増加を招いてしまうため、お客様にとっても不利益になってしまいますので。あとはとても基本的なことですが、人のせいにしないことを心がけています。
例えば、当社では地図の修正を行う際に修正指示原稿を作成していますが、その原稿に記載されている指示通りに地図編集が出来ていないという不具合事例があったとします。
その対策として単純に検査回数を増やしたり、複数人で作業するといった内容では、新たなリソース確保が必要になりますし、結果的にコストの増加に繋がってしまいます。
そうならないように、指示原稿自体に問題は無かったのか、その時の作業者の置かれている状況に無理はなかったのか、作業環境・検査項目・検査方法が適切だったのかなど、様々な切り口で原因を深堀りし、対策についても自動化によるリスクやコストの軽減に繋がるような形で多角的に実施しています。

– となると、品質部門のメンバーにも様々なスキルが要求されますね
取り扱うデータや商材の知識はもちろん、実体験や数値化された分析結果に基づく客観的な視点、リスクを想定する想像力、そして何よりコミュニケーションスキルが大事だと考えています。レビューを行う際も、裁判のような雰囲気にならないよう冒頭にユーモアのある雑談をしてリラックスしてから始める等、メリハリのある取り組みをしています。その方が私も楽しいですし(笑)

工程改善の取り組み
– 過去にはどのような取り組みをされましたか?
過去の取り組みでは、不具合の分析結果から様々な施策を行ってきましたが、印象深いのは「監査時間の圧縮」と「各業務の手順書診断」ですね。
品質部門の事前監査は、作業を行う上で必要な準備が整っているか確認するために大事な業務なのですが、ここであまり時間を取りすぎてしまうと、制作業務の時間を圧迫したり、集中して業務に取り組めなくなることもあり、結果として不具合発生の一因になってしまう可能性もあります。
そこで、制作部門の作業時間をしっかりと確保することも重要なポイントだと考え、必要以上に監査に時間を掛けていた取り組み方を改め、必要十分な監査を行うことによって監査時間の圧縮とともに制作業務の十分な作業時間の確保を実現させました。
この取り組みにより直接的に不具合発生の抑制に貢献できたか計測するのは難しいのですが、品質部門もコストを意識するという考え方ができるようになった点では、自身の成長にもつながった取り組みだと思います。

手順書診断については、手順書自体は当然存在しているのですが、当時は業務が属人化していたこともあり手順書が担当者のためのメモのような状態のものが散見されました。
属人化自体が悪いこととも思っておらず、何事もなければ業務は回るのですが、組織変更や突発的な病気やケガのリスクもあります。そのため、手順書として必要な記載内容を定義し、各業務の手順書に不足している点や曖昧な表現の個所がないかを洗い出すとともに、効率化できそうな点なども見つけ改善する事を試みました。
これにより不具合の抑制だけでなく、効率化や会社の資産としての手順書の価値を高めることにも貢献できたのではないかと考えています。

その他、先ほどお話ししたように、現在では特に変化点に注視して監査などの取り組みを行っているのですが、どのような事例を変化点として意識するかは、チェックシートなどで定義されていたとしてもわかりにくいところがあるので、変化点を題材としたテストを年2回実施しています。
このテストでは点数を取ることが目的ではなく、変化点であることに気づくことや変化が生じた際、日々の業務の中でどのように対処すればよいか、考え方の幅を広げることを目的としていますので、それぞれの設問に対して解説も用意し理解を深められるようにしています。

最後に
– 最後に一言お願いします
取り扱う商材や環境が日々変化していきますが、基本的には「お客様の満足いく情報をお届けする」ことに変わりはありませんので、この点を意識し業務に取り組んでいきたいと思います。
また、マップルでも生産性の向上や業務効率化を目標として掲げていると思いますが、私たち昭文社クリエイティブでも「高品質・低コスト」のスローガンに基づき、工程改善を行うことで業務の効率化を目指しています。品質向上の施策はやればやるほどコストがかさんでしまいますが、より効果的で効率的な方法を提案できるよう心掛けていきたいと思います。例えばこの作業を行うならこの検査を行うなど、定型化することにより設計時の抜け・漏れを防止することで品質の向上や設計作業自体のコストを下げる事にもつながるかもしれません。
先ほどもお話しましたが、制作側のコストがかさむということは、結果的に製品価格に影響が出てしまいますので、お客様にとっても好ましくないことだと思っています。適切な価格で、安心できる品質の製品をお届けすることが何より重要だと思っていますので、お客様に安心してデータ製品を購入していただけるよう日々努力を重ねているところです。
こういった取り組みを続けることで、ちょっと変な考え方かもしれませんが、最終的には品質部門をなくすことが目標になるのかもしれませんね。

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