MAPPLE法務局地図ビューアで見つけた気になる筆
マップルラボで公開している MAPPLE 法務局地図ビューア。全国の登記所備付地図データをマップルのベクトルタイル上に地図展開し、筆(土地)情報や形状を確認することができます。今回、MAPPLE 法務局地図ビューア(地図)を使って全国で見つけた気になる筆とその土地にまつわる話を紹介します。
◆No.66 平賀源内墓(東京都)~江戸時代の奇才「平賀源内」ゆかりの筆~
平賀源内は、大河ドラマ「べらぼう」の主人公である蔦屋重三郎が手掛けた吉原遊郭のガイドブック「吉原細見」の序文を書いています。蔦屋重三郎は、当時有名人であった平賀源内に序文を依頼することで、「吉原細見」の付加価値を高めようと考えました。 依頼を受けた平賀源内は、世間を驚かせる序文を寄せます。平賀源内は男色家として知られていたため、女性や遊郭に興味がないと思われていました。しかし、「吉原細見」に序文を寄せたことは、江戸の人々の耳目を集めました。これも蔦屋重三郎の狙い通りだったのかもしれません。
蔦屋重三郎が開業した耕書堂を模した「江戸新吉原耕書堂」(期間限定)
平賀源内は、1728年(享保13年)、現在の香川県さぬき市で生まれました。大河ドラマ「べらぼう」に登場する平賀源内は、多彩な才能の持ち主として描かれています。実際に発明家、起業家、文芸家、 画家、陶芸家、本草家、鉱山家など、様々な顔を持ち合わせていました。エレキテル(電気機器)の復元や、燃えない布・火浣布、量程器(万歩計)、磁針器などの発明は特に有名です。
鉱山事業で滞在した「源内居」がある秩父・中津川
例えば、幕府の許可を得て始めた秩父での鉱山事業が立ち行かなくなると、炭焼き事業を起こし、鉱山で利用した道路や河川を改修して低コストで炭を江戸へ運搬する計画を立てました。また、「国倫織」と名付けられた厚手の毛織物である羅紗(ラシャ)においては、緬羊の飼育から製造までを日本で初めて成功させ、事業化を計画するなど、産業面にも足跡を残しています。
葛飾北斎の富嶽三十六景
また、文芸にも秀でていた平賀源内は、人気作家でもありました。書いた戯作は人気を集め、人形浄瑠璃の戯曲(演劇のために書かれた台本や作品)も手がけ、「戯作の開祖」や「江戸浄瑠璃の開祖」とも呼ばれています。また、プルシアンブルー(紺青)を用いた「西洋婦人図」は、秋田蘭画や葛飾北斎の富嶽三十六景に代表される「紺青」に先駆けて使用しており、流行を捉える感性も持っていました。
角館歴史村・青柳家にある「解体新書記念館」
平賀源内は、杉田玄白らが翻訳した「解体新書」の刊行にも協力しています。平賀源内が鉱山開発の指導のために秋田を訪れた際、秋田蘭画の祖と称されることになる小田野直武に西洋画の手ほどきをしたと伝わっています。後に小田野直武は平賀源内の紹介により、「解体新書」の挿絵を描きました。
ゆかりのある場所には「史蹟」の石碑がある
実は、平賀源内と杉田玄白は、長きにわって親交を深めてきた間柄でした。二人の関係性を物語るエピソードがあります。平賀源内が1779年(安永8年)、不慮の事故で人を傷つけ、小伝馬町の獄中で51年の生涯を閉じた後、江戸の曹洞宗寺院を統括する江戸三箇寺の一つ、橋場の総泉寺に葬られました。その際、杉田玄白は私財を投じて墓碑を建て、「嗟非常人、好非常事、行是非常、何死非常(ああ、非常の人、非常のことを好み、行いこれ非常、何ぞ非常に死するや)」という言葉を贈り、その死を悼んだといわれています。
橋場と平賀源内に所縁のある筆(青丸)
平賀源内の墓所となった総泉寺でしたが、関東大震災によって罹災し、その後、板橋区小豆沢に移転しました。しかし、平賀源内の墓は、松平頼壽らによって築地塀が整備され、移転することなく橋場の地にとどまり、1943年(昭和18年)に国指定史跡に指定されました。
築地塀に囲まれた墓所
地図で平賀源内の墓所を見ると、二つの筆(土地)が設定されています。薄いピンクで塗った筆(土地)と濃いピンクで塗った筆(土地)です。二つの筆(土地)を空中写真で見ると、薄いピンクで塗った筆(土地)は墓所の敷地であることが分かります。また、濃いピンクの筆(土地)には、屋根らしきものが見えます。
平賀源内墓の筆(土地)
現地を訪ねると、築地塀と重厚な門扉があり、扉を開けると、庭園のような空間が広がっています。そして、濃いピンクの筆(土地)には、壁のない建物があり、墓石が納められていることが分かりました。
平賀源内の墓所
墓所内には、平賀源内と杉田玄白のエピソードが記された石碑もあり、墓所が大切に守られていることが伝わってきます。そのことは、筆(土地)にも表れています。墓石に対して筆(土地)が設定されていることは大変珍しく、筆(土地)は、平賀源内の墓所が大切に守られてきたことを物語っています。
出典:
国土地理院撮影の空中写真(2019年撮影)
「登記所備付データ」(法務省)を加工して作成
「地図の雑学」
「地図の雑学」は地図技術者・地図編集者が「地図の制作にまつわる話」や「地図を使った楽しみ方」を紹介するコーナーです。
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