コラム

地図の雑学|白川郷(岐阜県)~集落の特徴を色濃く反映した筆~

MAPPLE法務局地図ビューアで見つけた気になる筆
マップルラボで公開している MAPPLE 法務局地図ビューア。全国の登記所備付地図データをマップルのベクトルタイル上に地図展開し、筆(土地)情報や形状を確認することができます。今回、MAPPLE 法務局地図ビューア(地図)を使って全国で見つけた気になる筆とその土地にまつわる話を紹介します。

◆No.56 白川郷(岐阜県)~集落の特徴を色濃く反映した筆~

筆は集落の特徴を表していることがあります。岐阜県白川村にある白川郷の筆には集落の特徴が良く表されています。日本の原風景と呼ばれる白川郷は1995年(平成7年)に世界文化遺産に登録されました。
白川郷には合掌造りと呼ばれる、三角形をした茅葺の切妻屋根を持つ家屋が多く残っています。合掌造りの屋根は木材を頭頂部で交差させる又首構造のため、屋根裏には大きな空間が広がっています。この空間を利用して、養蚕が行われていました。また、合掌造りは切妻屋根のため、開口部から風と光が取り込みやすく養蚕に適していました。

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白川郷は山々に囲まれた豪雪地帯にあり、山間部に開けたわずかな平地に集落があることから平家の落人伝説があるなど、陸の孤島と言われてきました。白川郷は、集落の自然環境を守るために「売らない、貸さない、壊さない」という住民憲章を制定し、村全体で保存活動を進めてきました。このような村づくりは、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されることで形となりました。そして、世界文化遺産に登録されることで海外にも知られるようになりました。
近年、白川郷は日本の原風景が見られる場所として、インバウンドに人気の観光地となっており多くの観光客が訪れています。また、冬には期間限定でライトアップイベントが行われます。光に照らされた雪景色の白川郷はとても幻想的です。

白川郷の集落には水路が張り巡らされ、切妻合掌造りと呼ばれる三角形の茅葺屋根の建物が立ち並んでいます。空中写真を重ねて見ると、合掌造りは妻面が南北を向いて建つ、南北に長い建物となっています。同様に筆(土地)も南北に長い形状となっており、白川郷の筆(土地)の特徴となっています。

山岳地帯を南北に流れる庄川に沿って開けた白川郷は、季節によって風が南から北へ、北から南へと一定方向に吹き抜けます。そのため、妻面が南北を向いている建物は、風通しが良く、養蚕を行うのに適しています。また、合掌造りは屋根が東西に向いているために、日当たりがよく、積もった雪が解けやすいため、傾斜の大きな茅葺屋根によって雪は下へ滑り落ちます。さらに、日当たりが良いことは茅葺屋根が乾燥しやすくなる効果もあります。合掌造りはこの地に住む人々の生活の知恵と言えます。

このような生活の知恵は、地図にもよく表れています。家屋の筆(土地)は同じ方向を向いており、屋根に少しでも多くの太陽の光を当てる合掌造りの特徴が表れています。また、集落には無数に張り巡らされた水路のポリゴンが見られます。水路は屋根から落ちた雪を溶かすのに役立ちました。また、水路には家屋で火事が起きた時に、消火に使う水として利用する役目もあったようです。実際に空中写真を見ると、家屋の傍を流れる水路のポリゴンが集落全体に張り巡らされていることが分かります。このように、白川郷の筆には、この地で生活する人々の知恵が色濃く表されています。

集落に張り巡らされた水(水路)ポリゴン

出典:
国土地理院撮影の空中写真(2017年・2019年撮影)
「登記所備付データ」(法務省)を加工して作成

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